隷属なき道 ルトガー・ブレグマン 読了

 ルトガー・ブレグマン著「隷属なき道ーAIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働」を読み終えた。

 著者のことは、TEDでたまたま知り、ベーシックインカムというアイデアが持つ効果を知った。そのことについてもっと学びたいと思い、本書に手を出した。

 タイトルにAIとの競争に打ち勝つとあるが、原語タイトルは、「万人のためのお金」というような意味であり、AIに関しては、ひとつのテーマとして扱うが、それがメインというわけではない。

 この本の大きなテーマとして、歴史上最も豊かなはずの現代にも関わらず、依然として不平等も多く、鬱病も蔓延している世界を変えるにはどうすればよいかということがある。

 その根幹となるアイデアは、週15時間労働、ユニバーサル・ベーシックインカム、国境のない世界である。これらの意見は、AIの飛躍的な発展により、人間の労働時間は短くなる(この辺は消費を煽るGDPと絡めて)。貧困はお金が足りていない状態であり、さまざまなプログラムを講ずるよりは、単純にお金を配ったほうが、費用も少なく、効果的である。といった考えに基づいている。

 

 ここから各章ごとの感想を書いていく。

 

第1章 過去最大の反映の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?

 過去2世紀の間に世界の富と人口は爆発的に増え、中世の人から見れば、ユートピアそのものな世界になった。しかし、うつ病は深刻な健康問題になっており、富裕国の人の大半は、子供たちは親世代より悪い時代を生きることになると信じている。つまり閉塞的なのだ。資本主義は、豊穣の地へ導いてくれたが、それに代わる新たな指針が必要であるという話だった。

 対症療法的な問題解決を考えるのではなく、新たなユートピアへの指針を想像し、想像することがよりよい世界への第一歩ということである。

 ここで出てきたロバート・オウエンのニュー・ハーモニーの話だが、高校の世界史でこれが失敗し、オウエンは空想的社会主義者として括られていることを習った。しかし、そうした夢想家がいなければ今の暮らしもありえなかったという記述を見て、また、そうだよなぁ、と感じた。実際、そういう人たちが啓蒙して社会が少しずつ変わっていくものだと思うし。ブレグマンはまさに現代でそのような役割を立ち回っているんだなと感じたし、理にかなったことでもあるなと。

 

第2章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい

 文字通り、就職支援プログラムや生活保護などの煩雑な支援よりも直接お金を与えたほうが効果的でかかるコストも少ないという考えだ。これは世界各地で行われた研究に裏付けられている。にも関わらず、なぜこれが広く広まらないかというと、「貧乏人はお金の使い方が下手くそ」というイメージが蔓延しているからである。これが誤りである研究は本書参照。

 これはまあ直感的にそうだろうなあと感じる。手続きが多いことで全体の費用は大きくなるし、お金が足りないことからくる貧困を個人の能力や性格の責任にして、社会が上から目線で指導するというのには違和感があるからだ。そもそも俺がちゃんと勉強して大学出て職に就いているのも運みたいなものだし・・・

 というのは置いておいて、大体ブレグマンの意見に賛成であるし、信じたい。しかし、私はちゃんとこの主張の元となっているのデータを精査したわけではないので、一応そのことだけは頭に留めておこうと思う。

 あと、煩雑な手続きが実は膨大なコストとなっているというところ、会社のクソ手続きとかにも共通するところがあると思うし、その視点は持っておきたい。

 

第3章 貧困は個人のIQを13ポイントも低下させる

 ここからは各論という感じ。欠乏の心理によって長期的な視野が失われ、差し迫った欠乏に処理能力を集中させるという話。IQの低下もその一例。

 欠乏の心理は貧困だけでなくいろいろなことに当てはまると思うし、そのような心当たりもある。

 

各章ごとの感想は疲れたから全体のまとめに入るぞ~

 

 産業革命以降人類の労働時間は、減り続けていたのに80年代以降下げ止まりが見られた。また、労働生産性は上がっているのに実質賃金は下がり、貧富の差は拡大し、鬱は蔓延し歪みが出てきている。

 そこで、①週15時間労働、②ユニバーサル・ベーシックインカム、③国境のない世界、これらが世界を救うという話である。

①に関して、経済成長によって余暇と消費が増えたが、80年代以降は消費の増加であり、それは借金によって続いた。働かなければ生活レベルが下がるので労働時間の短縮は無理だと主張されるようになった。一方、過去の事例から長時間労働と生産性に相関関係はないことが分かっている。

 ならばどうすれば労働時間を減らせるか。まずは仕事を減らすことを政治の理念として復活させること。そして教育や退職制度を充実させていくことでそれは実現できると述べられている。

 浅学のためか、私はこの「仕事を減らすことを政治の理念として復活させること」があまりイメージできない。「政策としてお金を時間に換え」ともあり、これのことだろうが、つまりどういうことなのか。これ=教育や退職制度の充実なのか?本文を見る限り、政治の理念としての復活があってから、制度の充実があるように読めるように感じられ、であるならば前者はどういうことなのか。現在の制度による労働時間の長時間化の悪循環に陥らないような制度を作るという理念を国が持つ必要があるということであると一応解釈している。

 

②貧困対策に直接お金を配ることが有効ということは、2章のところで確認した。それに加え、AI時代に突入し、中流の人たちも次々に職を失い、格差がさらに増すことが予想される。テクノロジーの恩恵を受けつつ、格差を是正するには再分配を歪みなくすることである。それにはベーシックインカムが必要であるという話。

 

③迂遠な開発支援ではなく、直接お金を投下する、さらにいは国境を開けば、世界経済は飛躍的に成長し、格差も是正されるという考え。かなりラディカルだが、データも説得力があり、なるほどと感じる。いきなりは無理でも徐々にそういう世界になっていくのがいいのかもしれない。

 

 最後に・・・マジで頼むから、労働時間の短縮とベーシックインカム実現してくれ~って切に思います。労働に人生のかなりの時間が吸われるのは本当に勘弁。なのでブレグマンの主張を支持したい。本書でも言及しているが、奴隷解放も女性解放も当時は夢物語で誰もそんなものが実現するなどとは思っていなかったが、今では常識となっている。ブレグマンの主張も現在では、夢物語と感じられるところもあるが、女性解放や奴隷解放のように、真に良い考えとして広まっていくことを強く望む。また、私も所詮夢物語と冷笑的にならないスタンスを取っていきたい。